気液平衡とは



東京理科大学 教授


大江 修造


 
 発明したアングルトレイ蒸留塔
日本ブチル(株)殿
 主要な著書
     
   
  気液平衡の考え方については、高校生にも分かるように、気液平衡の専門家の立場から、解説します。 気液平衡を、蒸気圧から説き起こして解説します。計算方法については高校生のレベルを超えている部分もありますが、チャレンジしては如何でしょうか? 
   
  1.蒸気圧とは 
2.気液平衡とは
   計算例
3.気液平衡の計算方法
    気液平衡の計算(1) 平衡係数(平衡比)
    気液平衡の計算(2)  相対揮発度
    気液平衡の計算(3)  ラウールの法則
    気液平衡の計算(4)  活量係数
    気液平衡の計算(5)  状態方程式

 

 1.蒸気圧とは

   

 

気液平衡とは混合液(溶液)の蒸気圧のことです。

液体の蒸気圧や塩の溶解度は、「相平衡」と言います。相平衡とは、気体、液体、固体が2つ以上存在しているときのことをいいます。平衡とはつり合っているということです。そういう意味で、蒸気圧とは気体と液体の温度と圧力がつり合っていること、すなわち同じであることから「相平衡」といえます。

 気体と液体が平衡であるという意味で、蒸気圧も気液平衡であるといえますが、専門分野で蒸気圧のことは気液平衡とは言いません。飽和蒸気圧という語もありますが、蒸気圧は、もともと飽和状態のことを示していますから、飽和蒸気圧という語もほとんど使われません。

 この点が、蒸気圧や気液平衡を初めて学習する高校生には分かりにくい点と言えます。ちなみに、昭和47年発行の教科書「新訂化学B」、東京書籍株式会社発行には、気液平衡という語は記載されていませんでした。

 

そこで、先ず「蒸気圧とは何か?」について考えます。この答を我々は身近に体験できますビーカーに 水を入て放置しておくとビーカーの中の水は無くなりますこれは水が空気中に蒸発しからですでは、なぜ、水は蒸発するのでしょう?

 それは液体である水の分子が運動るからです

   
 

 
 

1 水を入れておくと蒸発して空になる

2 水の分子が運動して蒸発する


水の分子が
運動するのは目で確かめることができます水の中にインクをたらすと最初はインクの色が見えますがしばらくするとうすくなります一滴程度の場合はほとんどが消えます。これは水の分子が運動していてインクの粒子をちらばすからです
 




3 水にインクをたらすと色がうすくなるのは

水の分子がインクをちらばすから

ビーカーにフタをするとどうなるでしょうか? 水は蒸発して空間に飛び出しては来るも行き場がなくて空間で飛び回ってますのとの分子がフタやビーカーや水面当りますの分子は目には見えませんが、大きくすれば野球のボルのようなものです。これがタやビーカーや水面に当ると、フタを押します室温程度の温度では押す力は 弱いのですが100℃ 以上に加熱すると沸騰してフタを押し上げるの力となります。この押し上げる力が水の蒸気圧力ですこれを水の蒸気圧」と言ます 

4 の分子がフタに当り圧力となる

「蒸気圧」

 


 2.気液平衡とは

ろで水以外の物質でも液体は蒸気圧を発生しています例えば ンゼンとトルエンを考えて見ましょうンゼンとトルエンを別々ビーカーに入れて放置しますと、両方とも蒸発しますしかし、ベンゼン を入れたビーカーの方が先に空になります 

   

5 ベンゼンの方が先蒸発する

その理由はベンゼンの方がトルエンより蒸気圧が大きいからですンゼンの方が分子の運が激しいのですそのためトルエンより 余計に蒸発しますすなわちベンゼンとトルエンの蒸気圧には差があるのです 

ベンゼンとトルエンを混ぜたらどうなるでしょうか?すなわち、気液平衡とは何かを考えます。 混ぜた場合でもベンゼンのが余計に蒸発します混ぜてもベンゼンの蒸気圧の方が大きいことに変わりはないのです 

6 ンゼトルエンの混合物で

ベンゼンが多く蒸発する

ビーカーにフタをしますと蒸発しベンゼンやトルエンには逃げ場はありませんビーカーの中に止まりますその結果気体はベンゼンのものとなります。図7を見て下さい液体と気体のベンゼンとトルエンの濃度を示しました液体中にはベンゼンとトルエンがじ量入ってるものとします(蒸気)なるとベンゼンの濃度が高くなっています。なぜなら、ベンゼンの蒸気圧の方がトルエンより大きいからです。

これが、混合物の蒸気圧、すなわち、気液平衡です。 気液平衡とは、気相と液相とが平衡(つり合う)にあるという意味ですが、これは、図7にあるように、気相の濃度と液相の濃度がつり合っているという意味なのです。

7 気相はベンンの濃い蒸気が得られる

(気体のことを気相、液体のことを 液相と言います)

→「気液平衡」

1回の蒸発で得られた気相を縮してまた蒸発させますと、さら 

にベンゼンの濃度が高いベンゼンとトルエンの混合物の気相を得ることができます。の蒸発、蒸発・・・う繰り返しが留の原理となります。

蒸留を実現するためには、蒸留する溶液の気液平衡が必要不可欠です。ここに、気液平衡を学ぶ意味があるのです。

 気液平衡の計算例を以下に示します。

 【気液平衡の計算例】

ベンゼンとトルエンが等モル存在するときの気液平衡を計算します。

 液相のベンゼンおよびトルエンのモル分率は、それぞれ0.5となります。

今、40℃の場合を考えますと

ベンゼンの蒸気圧の測定値は25.0 kPa, トルエンの蒸気圧の測定値は7.89 kPaですから、ラウールの法則により

    ベンゼンの気相における分圧は、25.0×0.512.5kPa

    トルエンの気相における分圧は、7.89×0.54.0kPa
となります。
 したがって、全圧はドルトンの法則により、12.5+4.0=16.5 (kPa) ですから、

   ベンゼンの気相におけるモル分率は、12.5÷16.50.76(モル分率)

   トルエンの気相におけるモル分率は、4.0÷16.50.24(モル分率)

がえられます。

すなわち、液相にはベンゼンとトルエンは1対1で存在しているのに、

気相ではベンゼンとトルエンは約3対1で存在しているのです。

 図7は、この液相と気相の濃度の関係を、模式的に示しています。

(ご注意)本著作は著作権法で保護されています。本解説には、本解説でしか使われていないものが含まれています。本著作を引用する場合は、必ず「東京理科大学 元教授 大江修造によれば」と明記してください。

 



3.気液平衡の計算方法


蒸留塔の設計には気液平衡の計算が必要です.この気液平衡を原理図により分かりやすく解説します。密閉した容器中に溶液を入れた状態で、温度、圧力、気相と液相の各組成が変わらない状態を気液平衡状態と言います。図を参照してください.

これは液相から気相への蒸発と気相から液相への凝縮とが平衡になった状態です.蒸発・凝縮の際,通常の気液平衡では成分同士は反応しません.反応をする場合は「反応を伴う気液平衡」と言って区別します.揮発成分同士の気液間の平衡を気液平衡と言い,固体成分を含む平衡(蒸気圧降下や沸点上昇)は気液平衡とは言わずに固液平衡と言います.

温度、圧力、気相と液相間の関係を図で示すのが気液平衡曲線あるいは相図と言います.また気相と液相間の関係を図で示すのがx-y曲線で,主に化学工学で使います.参考:気液平衡データ

気液平衡の計算はラウールの法則や活量係数を用いて行います.ラウールの法則を用いることができる理想溶液の場合は蒸気圧データのみから計算すなわち推算できます.活量係数を用いる非理想溶液の場合は実験により得たデータから相関します.

気液平衡の計算方法は種々あり、大別すると次の5種になります。

 気液平衡の計算(1)

=K

=K

=K

.....

n=Knn

ここに, K,K,K,....Kを平衡係数あるいは平衡比と言います。1,2,3,....,nはそれぞれ第1成分,第1成分,第2成分,第3成分,,..,第n成分を示します。

気液平衡の計算(2)

=α1/(α112233+...+αnn)

2=α22/(α112233+...+αnn)

3=α33/(α112233+...+αnn)

.....

ここに, α1,α,α,....を相対揮発度と言い、

それぞれ,P1/Pn,P2/Pn,P3/Pn,....,Pn/Pnであり、P1,P2,P3,..,Pnは、それぞれ各成分が単独で存在するときの蒸気圧です。

気液平衡の計算(3)

 

ラウールの法則による計算

p=P

p=P

p=P

.....

pn=Pnn

ここに, p,p,p,....,pnを各成分の分圧と言います。

P1,P2,P3,..,Pnは、それぞれ各成分が単独で存在するときの蒸気圧です。このように気液平衡を表現できるのは理想溶液の場合です。蒸気圧はアントワン式により計算します.

気液平衡の計算(4)

 

p=Pγ1

p=Pγ2

p=Pγ3

.....

pn=Pnγnn

ここに,P1,P2,P3,..,Pnは、それぞれ各成分が単独で存在するときの蒸気圧である。p,p,p,....,pnを各成分の分圧と言います。γ1,γ2,γ3,....,γnをそれぞれ各成分の活量係数と言い、非理想溶液の気液平衡を表現するための熱力学的に定義される係数です。ラウールの法則を活量係数で補正した表現です.活量係数はウィルソン式により計算します.

 気液平衡の計算(5)

成分の1つが臨界温度を超える温度ではラウールの法則などでは表現できません.このような場合は状態方程式を使います.

 

本サイトの運営者・大江修造のプロフィル

1. 本サイトの運営者・大江修造の主要な研究実績

〇工学博士

東京都立大学院、1971年授与、指導教授は、気液平衡研究の第一人者であった故平田光穂教授、学位論文名「蒸留プロセスおよび蒸留塔の設計に必要な気液平衡の研究」 IHI且蜚C研究員を経て、東海大学教授、東京理科大学教授を歴任。この間、米国の蒸留研究機関FRI (Fractionation Research, Inc .)の客員研究員を経てコンサルタントに従事。

 
 〇気液平衡データ集

1975年上梓の気液平衡データ集(主要著書1番)は、ウィルソン式定数を世界で初めて掲載し、DECHEMA(ドイツ)のデータ集より2年早く出版され,MITのReid教授の書評で極めて高く評価された。マチューセッツ工科大学の物性推算法の第一人者であるReid教授は世界で最も権威がある米国の化学工学学術論文誌の最終頁の書評欄で「最も印象的で美しい気液平衡データ集...」と評価していただいた。
 "A most impressive and beautiful compilation of binary vapor-liquid equilibrium data....",
  Robert C. Reid, Massachusetts Institute of Technology, "
  AIChE Journal
"(Vol.22, No.5), September,1976, page 957.

この書評のためもあって、同著は多くの化学工学技術者に親しまれた。Reid教授が他の共同執筆者とともに執筆した名著(初版)の3版以後、役に立つデータ集として、(主要著書2,3,4番)とともに紹介されている。
 Poling, Prausnitz,O'Connell,
  "The Properties of Gases and Liquids, 5th edition", McGraw-Hill, 2000
    Table 8-1a Some Useful Books on Fluid-Phase Equilibria

 

〇大江モデル

気液平衡における塩効果の推算法として提案した溶媒和数を使う推算法は、米国化学会の招待講演で発表後、「大江モデル」として使われている。

招待講演は米国化学会の専門書 Advances in Chemistry Series に2回収録されている。Prediction of Salt Effect on Vapor-Liquid Equilibrium: A Method Based on Solvation
 Advances in Chemistry Series, No.155, 53-74 (1976)
(米国化学会)
Prediction of Salt Effect on Vapor-Liquid Equilibrium: A Method Based on Solvation II
 Advances in Chemistry Series, No.177, 27-38 (1979
)(米国化学会)

 多数の引用例があるが、2例のみを示す。ジョージア工科大学のTejaによる大江モデル論文の引用が学術論文誌 Fluid Phase Equilibria, 219 (2004) 257-264に掲載されている。同様にウィスコンシン大学のPabloらによる引用が米国化学会の学術誌 Ind. Eng. Chem. Res. 1996, 35, 234-240に掲載されている。

 

〇アングルトレイの発明

運営者が発明し、勤務先IHI(株)で社長賞を得たアングルトレイを、米国の蒸留研究機関FRIで、客員研究員として実証試験を行った。圧力損失が小さく、高効率である性能を有し、化学会社10社以上で採用された。

研究開発の成果は以下の「石川島播磨技報」に発表した。
(1)蒸留塔用トレイの研究,9巻 495-504 (1969)
(2)多孔板塔の塔効率, 10巻 314-317 (1970)
(3)ベンチスケール蒸留装置による実験的研究,10巻 217-222 (1970)
(4)アングルトレイの性能試験,12巻 461-465 (1972)
(5)アングルトレイのスケールアップ試験,14巻 105-110 (1974)

米国のFRIでの試験の結果、アングルトレイの性能が優れていることが分かったので、米国の化学工学技術の専門誌の新製品の欄に1頁を使って、写真入りで
"Distillation Tray Features, Low ΔP, High Efficiency", CHEMICAL ENGINEERING, January 20, p.62, 1975
と紹介された。

 

〇物性推算法

本サイトの運営者はIHI鰍ノ入社後、直ちに物性推算の実務に、従事し、現場体験をもとに「物性推算法」(主要著書10番)を上梓した。同書は、実務体験をもとに、実務に従事する化学技術者を対象をとしている。そのために、類書である、"The Properties of Gases and Liquids"では取り扱われていない気液平衡推算式の温度特性などの記述や、純物質の蒸気圧推算法が記載されていて、広く国内や台湾・中国の科学技術者に使われている。同書の発行以後、「物性推算法」なる語が定着した感がある。

2. 本サイトの運営者・大江修造が関係した国家プロジェクト

経済産業省の蒸留技術国家プロジェクト2006に審査委員長として参加した。
「内部熱交換による省エネ蒸留技術開発(HIDiC)」委員(敬称略)
分科会長 大江修造(東京理科大学)
分科会長代理 仲 勇次(東京工業大学)
分科会委員 小山 繁(九州大学)
分科会委員 齋藤熹敬(アルコール協会)
分科会委員 松田一夫(千代田化工建設)
分科会委員 緑 静男(ミヤコ化学梶j

3. 本サイトの運営者・大江修造の主要受賞歴

〇文部科学大臣表彰 科学技術賞(平成17年度)
〇化学工学会 国際功労賞(平成22年度)
〇米国化学工学会 (AIChE: American Institute of Chemical Engineers)
  分離技術部門表彰(平成20年、日本人では初)

4. 本サイトの運営者・大江修造の主要著書

(1)"Computer Aided Data Book of Vapor-liquid Equilibria", Elsevier, (共著),
   Elsevier
, 全 970 頁中 829 頁執筆 (1976)
(2)"Vapor-liquid Equilibrium Data", Elsevier, 全782頁(1989)
(3)"Vapor-liquid Equilibrium Data at High Pressure", Elsevier, 全382頁(1990)
(4)"Vapor-liquid Equilibrium Data-Salt Effect", Elsevier, 全394頁(1991)
(5)「蒸留工学」講談社,頁数 200 (1990)
(6)「改訂5版 化学便覧 基礎編U 日本化学会編」(共同執筆)
    7.輸送現象の熱拡散中の気体中の拡散(U-67〜U-70頁)丸善(2004)
(7)「分離のための相平衡の理論と計算」講談社, 全237頁 (2012)
(8)「蒸留技術大全」日刊工業新聞社, 全387頁(2017)
(9) 「改訂6版 化学便覧 基礎編U 日本化学会編」(共同執筆)
    7.輸送現象の熱拡散中の気体中の拡散を担当丸善(2021)
(10)「物性推算法」データブック出版社、全426頁(2011)

5. 本サイトの運営者・大江修造による主要データベース・ソフトウェア

(1)Excel蒸気圧データ −アントワン式定数集ー
(2)Excelによる気液平衡データ集第2版
(3)Excelによる気液平衡データ集,NRTL式編
(4)Excelによる多成分系蒸留計算プログラム
(5)Excelによる多成分系蒸留計算プログラム(側流付)

© Shuzo Ohe, 1999-